有機農産物 お茶の検査について

2015/05/30

 

 

原稿執筆:消費生活アドバイザー 山喜 秀昭

 

 平成12年のJAS法の改正に伴い、食品に「有機」と表記するためには、登録認定機関の検査を受け、認証をもらうようになりました。認証後は年一回の継続検査が行われます。

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私は、登録認定機関に所属する有機農産物の検査員です。

最近、長崎県北松浦郡佐々町に所在するK茶園の圃場検査(継続検査)を行ったので、検査の様子を簡単に紹介します。
 

K茶園の検査から-長崎県佐々町、平戸、佐賀県嬉野、武雄-

朝9時に圃場敷地内の住宅兼管理事務所に到着。
有限会社組織の社長夫婦に挨拶した後、長男の生産行程管理責任者と検査の段取り合わせを行いました。
前年度の栽培、生産及び販売実績は事前に送付された報告書によって問題がないことを確認していたので、現場検査として圃場の管理に問題が無いかどうかを調べました。

K茶園は作付け面積約11haで、これを社長夫婦及び長男と次男夫婦の計6名で維持管理し、幾人かの雇用人を使って、茶の栽培、収穫、加工、販売の全てを行っています。

昭和50年頃、地場の生協と共同で有機による茶葉の栽培に着手した当初は、地域で理解が得られず、また、技術的にも未熟なため収穫量が悪く、一家の生活は困窮を極めたそうです。
苦心と工夫の幾年の後には、本拠地の佐々町以外に平戸島、佐賀県の武雄や嬉野にも圃場を確保し大口の顧客とも契約出来るようになりました。

現在は、両親と二人の息子夫婦が経営の中心となり、繁忙期には臨時の労働力を近傍農家から確保し、武雄や嬉野は契約栽培者に日常の作業を委託しています。  

 

佐々町の圃場

本拠地佐々町の圃場は丘陵の頂上に位置し、農業用水は天の恵み。周囲の桧の植林は管理が放棄され、背の低い雑草や潅木が繁茂しており、農薬等の使用はありません。たまに、ミミズ等を食べる目的で茶畑に出没する猪に出くわすとか。猪は茶木を傷めます。
茶木は苗木畑で2年程栽培されて、畑に移植後5年程経過してから摘茶が可能になり、寿命は40年程度。
日本の茶畑は、丸く刈り取られた茶木が幾条にも列をなしています。
なぜこのような形になっているのか。それは、機械により効率よくお茶が摘めるようにしているからです。
これからは摘茶機の構造の変化に合わせて、茶木の形は頂を平たく成形するようになるそうです。

佐々町の圃場検査を終わり、平戸島・武雄・嬉野へ

平戸は長崎市より早く外国貿易港として栄えた町で、日本で最も古く中国から茶木が移植されました。
日本第一号の茶木の子孫木がいまだに繁殖しているそうです。
平戸島の次は武雄の圃場を検査しました。
ここの契約栽培者は、家人を除草剤中毒で失ったことを契機として、有機農業を実践するようになったそうです。
最後に佐賀県嬉野の圃場を検査しました。

 

遠隔地に複数の圃場を持つメリット

圃場間で新芽の生育状況にかなり差がありました。
平戸島は潮風の影響を受け、武雄、嬉野は温暖な気候が生育を早めます。
生育条件の異なる遠隔地に圃場を経営すると、全滅リスクの回避や同一作業を各圃場で別の日に行えるという、作業性のメリットがあるそうです。

 

お茶の表示について

ところで、元来お茶の色は黄色でしたが、消費者の好みに合わせて緑がかった色に変わってきました。味はグルタミン酸が豊富な方が好まれ、いまだにグルタミン酸ナトリウム添加のお茶が市場に出回っているらしい。

 

食の安全を守るか、嗜好を重視するか

グルタミン酸は窒素過多で日光照射不足の茶葉に蓄積されます。
お茶の栽培には多量の窒素分を必要とします。
化学肥料を使わないと、茶木はどうしても窒素不足となってしまいますが、有効な窒素補給方法が無いそうです。
有機栽培での窒素不足は深刻な問題。食の安全を守るか、嗜好を重視するかの選択となります。
少しでも窒素を取り入れ、土壌を豊かにしたいという工夫から、茶木が若く、茶木条間が狭くなっていない期間は、ひよこ草やレンゲ草系の窒素を含む有用雑草を茶木条の空き土壌に繁茂させています。
雑草は、萓場で刈り取られた萱と共に畑にすき込まれ、遅効性の肥料となります。
茶木が十分に成長して茶木条間の土壌に届く日光量が減少してくると、雑草の繁茂が少なくなり雑草管理の手間が省けるようです。

 

原産地の表示

佐賀県武雄、嬉野には棚畑が多く、機械の利用も困難と思われる条件の悪い茶畑が多い。
嬉野近郊の荒茶(茶葉を摘んで、蒸して水分をとばす)の生産量は減少しているという。今は昔、長崎県佐々町の荒茶も嬉野茶として出荷されていたと聞きます。ちなみに、鹿児島県知覧の荒茶は静岡茶に加工されるらしい。最近話題の偽JAS表示問題に抵触しそうな話である。

一方、K茶園は佐賀県嬉野の圃場の茶葉を長崎県佐々町で加工しているが、ブランド名で販売しており、地名で売っている訳ではありません。
ちなみに、K茶園は圃場ごとの荒茶生産量を明確に記録し、各アイテムのブランド率も記録を残していました。

原産地表示については、よく考えれば首を傾げたくなる食品が数多くあります。あまり話題にはなりませんが、ジャパニーズウイスキーもその一つです。2、3の国内蒸留工場の原酒しか使用していないはずなのに、なぜか製品のアイテムは数が多く、インターネットで調べれば、国内のウイスキーメーカーはどの会社も国外にディスティラリー(蒸留所)を所有しています。

 

お茶の製造年月日は袋詰めをした日

お茶に関しては、製造年月日はいつなのかという問題もあります。

春の終わりになると、新茶祭りなるものが開催されます。
八十八夜より、うんと早い時期にです。
昨年までは問屋筋の力が強く、新茶祭りには各ご当地新茶が全国先を競うように発表されていたそうです。
このことにK茶園は首をかしげます。発表された時期に、そのご当地新茶はまだ早すぎて摘茶できないはずのものが多いといいます。

また、一番茶、二番茶、三番、四番と摘んで加工ブレンド袋詰めし販売されるお茶で、新茶の中身が100%一番茶であるとは、はなはだ疑問であるという見方もあります。

結局のところ、お茶の製造年月日は袋詰めした日ということになります。
しかしこの考え方は、食品のリパック問題や賞味期限の付け替え問題と関係してきます。
これらの問題は、だれもが知らんふりしてすませています。私もリパックの例を幾つか見聞きしました。

そもそも、賞味期限自体があてになりません。
科学的根拠で決定することとなっていますが、科学的根拠とは何かがよくわかりません。よくわからないことは適当でかまわないこととなって、偽JAS表示が横行することとなります。

偽表示は、流通段階が円滑に動くためにやむ終えなかったという言い訳があります。
有機茶も、昨年までは問屋筋の力が強く、納品量を保証し、ペナルティーを持つという条件でしか契約出来ない場合が多かったそうです。偽JAS表示問題が表面化した今年は、生産者の声が少しだけ聞いてもらえるらしい。

 

有機農法はリスクと隣り合わせ

自然を相手にする農業生産の現場では、何が起こるかわかりません。
特に有機農法においては、病害の発生による全滅の危険と隣りあわせです。
こういったリスクを回避するため、圃場を遠隔地に分散させる等の対策の必要性を痛感しますが、それと共に生産者と商社等の生産契約の際には、有機農法の特殊な事情を考慮した契約をとりかわすべきではないかと思います。